アクションを促すデザイン(避ける2):猫でもできるグラフィックデザイン76
避けるデザインについて、さらに少し掘り下げてみます。本能的な回避行動と、経験や教育、文化に基づく回避行動とは相互に変換が可能です。
避けるアクションは、身を守るために重要な行為です。周囲の一般的な状況、つまり自分が現在いるところや見知っている状況と比較して、違うところがあれば避けようとします。この「違い」は、明確に認識できるものもあれば、なんとなく違和を感じるだけのものもあります。
この本能的な回避行動がうまく働かないと、事故が起こる可能性が高まります。イヤホンをしたまま自転車に乗っている人が起こす事故は、周囲の状況を把握する手段が少ない状態のまま移動することで、状況の変化に気が付かないため起こります。また、大雨のときに側溝に落ちてしまう事故は、見た目としての違いが分かりにくいことが原因で起こります。
一方で、自分にとって不利益なことが起こらないことがわかっている場合は、「避ける」を促すデザインが「向かう」を促すデザインになる場合があります。セールの案内や値引きのPOPなどがそれにあたります。周囲との違いを強調した結果、「避ける」を選ぶのか「向かう」を選ぶのかは対象の状況判断次第です。
さて、避けることを促す方法は、本能的な方法と経験的な方法とに分けることができますが、これは「直接的なもの」と「間接的なもの」と言い換えることも出来そうです。例えば、防犯を目的とした、「犯罪者を避けるデザイン」を考えてみましょう。警備員に見張ってもらう、柵をつくる、有刺鉄線を張る、などのデザインが考えられます。これらはいずれも、直接的な防犯のデザインです。
間接的な防犯のデザインとしては、監視カメラを挙げることができます。監視カメラの存在は犯罪の抑止に効果があります。監視カメラは「今は犯罪を制することはできないけれども、いずれあなたには罰が課されますよ」ということを経験的(=間接的)に訴え、その場で犯罪に及ぶことを避けるよう促しています。ここから一歩進んで、「監視カメラ作動中」のシールを貼るだけでも、同様の効果が期待できます。
本能的に避けていたものが、教育や学習によって知れ渡り、経験的なものへと変化します。また、経験的に避けるアクションを繰り返していると、いつの間にか反射的に避けるようにもなります。本能的なものと経験的なものとは互換性があり、これを繰り返すことで安全や安心を確かなものにしているといえるでしょう。