デザインの練習(エレベーターのボタン5):猫でもできるグラフィックデザイン28
「エレベーターのボタン」についてのデザイン考察は今回でようやく最終回とします。今回の要件は「車椅子でも使いやすく」です。階数ボタン、開閉ボタンを並べるパネルの位置をさんざん悩んできましたが、おそらくこれまで考えた場所やパネルのデザインでは不十分です。これは、位置の高いボタンは車椅子の方や小さな子ども、老人などが届かない可能性があるからです。
おとうさんやおかあさんに抱っこをされながらエレベーターに乗ってくる子どもが、しきりに階数ボタンを押したがる光景をしばしば目にします。子どもにとっては、ボタンを押すことが楽しい体験なのでしょう。小学一年生前後と思われる、ある程度大きくなった子どもでも、大人に支えてもらいながら上層階のボタンを押しています。つまり、小学生は1人で上層階のボタンを押す事ができないのです。
小学1年生の平均身長は115cm程度だそうです。手の長さで身長+35cmくらい上まで届くので、ボタンの高さをおおむね150cm程度までに抑えなければ、小学生が1人でエレベーターに乗ることはできません。これは腰が曲がったり、体の自由が効かない老人でも同じことです。
一番考慮しなければいけないのが車椅子での利用です。車椅子利用者のことを考えると、床面から130cm以下に取っ手やスイッチ類を収めることが望ましいとされています。これで先程よりも高さの条件が厳しくなりました。
それでなくてもパネルを設置するスペースのないエレベーター内でしたが、こうなると扉横の狭いスペースだけを使う、というデザインでは限界がありそうです。この結果として、扉から入ったときに、エレベーター内の左右の面や奥の壁面に車椅子利用者用のパネルを設置するようになりました。パネルにはいずれも横向きにボタンが設置してあり、高さの問題を解決しています。一方で、階層を視覚的にあらわすために縦に階層ボタンを並べるのは諦めなくてはいけなくなりました。
必ず、ではないかもしれませんが、横向きに設置してあるパネルで操作すると、開閉ボタンを操作した時の扉のアクションが多少変わります。具体的には、開いている時間が長くなります。これは、車椅子利用者に余裕を持って出入りしてもらうためです。同様に、エレベーター外側の入り口にもボタンが上下に分かれて設置してある場合がありますが、同様の動作を設定してあるはずです。
おそらく、機械の耐久性やメンテナンス性など、もっと複雑な要件があることは想像に難くありません。エレベーターのように毎日使う道具だからこそ、まだまだデザイン改善の可能性はありそうです。