良いデザインと悪いデザイン19:猫でもできるグラフィックデザイン22
今回のデザインキーワードは「トロンプ・ルイユ」です。言葉としてはあまり耳馴染みのない言葉ですし、デザイン用語としてもそれほど知名度がある言葉ではないかもしれません。トロンプ・ルイユの概要と、その使いどころについてまとめました。
トロンプ・ルイユとは「だまし絵」や「トリックアート」のような表現技法のことです。フランス語で「目の錯覚」を意味する「trompe-l’œil」に由来します。外国語なので、表記や発音に揺れがあることも多く、「トロンプイユ」ともいいます。トロンプ・ルイユは大きく4つにわけることができます。
一つ目は実際は存在しないものを描き、そこにあるように見せるものです。たとえば教会の天井画や壁画がそれに該当します。建物をより高く見せたり、広く見せたりする効果を期待しています。また、宗教的意味合いから想像上の世界を描くこともあるそうです。また、映画や舞台の書割も同じ目的です。
二つ目は見方によって別のものに見えるものです。いちばん有名なものは「ルビンの壷」とよばれる、二人の人間のシルエットが向き合った図形です。ルビンの壷では、図(1つのまとまりのある形として認識される部分)と地(図の周囲にある背景)とを入れ替えることが出来ます。また、目を細めたり、離れてみたり、鏡で写したり、逆さにすることで別の絵がみえるデザインもこれに分類されます。
三つ目はありえない構造を表現したものです。実際にはありえない構造の建築などを2次元上で表現するものです。有名なのはマウリッツ・エッシャーによる作品などでしょうか。
四つ目は、大きさ、長さ、角度、色などを錯覚するものです。「この線の長さは実は同じです」という書き添えのある、両頭矢印をみたことがあると思います。また、近年「金と白のドレス/青と黒のドレス」などの、色が違って見える写真が注目を集めました。
トロンプ・ルイユは表現やデザインの手法として使われてきましたが、どのような効果があるのでしょうか。トロンプ・ルイユは、利用者の体験を向上させます。狭い部屋を広く感じさせたり、実際にはあり得ない景色やものを見せることは体験の向上に貢献します。また、好奇心を刺激するため、広告に用いることも出来ますし、これまでにない新しい表現であれば芸術として扱われることもあります。他にも、費用をかけずに高級感を演出したり、画面上にボタンのUIを実装する場合にもトロンプ・ルイユのアイデアが使われているとみて良いでしょう。