デザインとアート:猫でもできるグラフィックデザイン03
前回のコラムでは、学生時代に絵を描くことが好きだったにもかかわらず、社会人になってデザインが苦手になってしまう理由を分析しました。デザインを苦手に感じるもうひとつの理由は「デザインとアートとを混同している」からかもしれません。
デザインとアートの違いについては、これまでいろいろな人がいろいろな場面で議論してきたテーマです。筆者も折に触れて考えてきましたが、万人が納得できる答えを出すのは難しそうです。ただ、いくつかの視点で比較することはできそうです。前提として、辞書的な意味や歴史的な言葉の変化はあまり考慮しません。現代の日本語において、一般的に用いられる「デザイン」と「アート」について考えています。
まずはそれぞれの目的を比べてみましょう。アートの目的は「表現」です。作者の内側に秘めた思いや情熱、感じたものを形にします。デザインの目的は「問題解決」です。与えられた課題を解決すべく、形にしていきます。
次にターゲットについてです。アートのターゲットは不明確です。誰が、どのように受け取ってもよい場合が多いでしょう。一方、デザインのターゲットは明確です。ターゲットを意識しながら制作しなければいけません。
次に利益の追求について比べてみます。アートは商業ベースで考えないことも多く、利益の追求は必須ではありません。一方、デザインは商業ベースで考えなくてはいけません。これに基づいて、費用や製作時間などの制限が発生します。この制限の有無も大きな違いです。アートには基本的には制限がありません。もちろん、何をやっても良いわけではなく、コンプライアンスが求められます。他方、デザインには制限がつきものです。その制限の中でどうするか、という工夫をするのがデザインの本質かもしれません。
また、ベクトルの違いも明らかです。視点の違いといっても良いかもしれません。アートは主観的で、内向きのベクトルで表現するのが良さそうです。デザインは客観的であることを求められ、こちらは外向きのベクトルが適当です。
このようにみていくと、アートとデザインの違いがなんとなくでも頭のなかで形作られてきたのではないでしょうか。また、学生時代に授業で取り組んだものが「アート」と「デザイン」のいずれなのかがわかるようになったと思います。子どもには自由な表現、つまりアートが期待されますが、工作やポスター制作などではデザインが求められる場面もあります。アートとデザインの違いがわからないまま取り組み、デザインにアートと同じ手法を使おうとして失敗した結果、デザインが苦手になる……という流れが作られているのではないでしょうか。