「一点突破、全面展開」という幻想
こんにちは、高木です。
私はガラに似合わずビジネス書の類もそれなりに読みます。
そんな中で、孫子であるとかランチェスターの法則を目にすることも少なくありません。
中には、何もわざわざ孫子やランチェスターを持ちださなくてもいいようなものもあるのですが、古典で権威付けしたほうが書籍の売れ行きや講演会の入場者数が増えるのでしょうね。
書籍なんかはまだいいんです。
そうした書籍や講演会で聞きかじったフレーズを取り上げて偉そうなことを書いているブログなんかを見ると、正直「痛いなあ」と感じてしまいます。
中でもとくに痛いのが「一点突破、全面展開」というフレーズです。
このフレーズは極左団体が昔よく使っていたようで、共産主義革命のスローガンにもなっていたと聞きます。
いろいろ調べてみると「一点突破、全面展開」というのが孫子に出てくる言葉だという人が少なくありません。
私は学生時代から孫子には親しんでいますが、そんな言葉を見た記憶はありませんでした。
おそらく虚実篇の「我專爲一、敵分爲十、是以十攻其一也」という部分のことを言っているのでしょうが、どう読んでも「一点突破、全面展開」ではありません。
戦力に劣る勢力が巨大な敵に立ち向かう上での戦術は、いまだ零細企業の域を出ないクローバーフィールドにとっても大切です。
けれども、こんないい加減な言葉に振り回されている場合ではありません。
孫子の虚実篇は、十をもって一を攻める以前に、その前提となる条件を作り出すことに重きを置いています。
ランチェスターの法則にしても、弱者が強者を相手にする際に有利とされる第一法則を適用するには、やはりその前提条件があるのです。
この前提条件を作り出すことを疎かにすると、十をもって一を攻めるどころではなくなってしまいます。
孫子の謀攻篇には次のような言葉があります。
「故用兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、敵則能戰之、少則能逃之、不若則能避之、故小敵之堅、大敵之擒也」
まさに弱者が威勢を張っても強者の餌食になるだけなのです。
そういえば、「一点突破、全面展開」と似た発想に「迂回奇襲作戦」があります。
これもかなり痛い発想です。
桶狭間の戦いに関する軍記物の記述を真に受けて、何とかの一つ覚えのように「迂回奇襲作戦」を繰り返してしまったことで多くの悲劇を生み出しました。
ガダルカナル島の悲劇もそのひとつですね。
現代でいえば、大河ドラマの描写を真に受けて実践に応用するようなものです。
まさに「生兵法は怪我のもと」ですが、われわれのような小勢力の場合は怪我ではすまない深手を負いかねません。